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2011年11月28日

状況を無視した独りよがりのインタラクティブデジタルサイネージ

  これまでは比較的近未来のデジタルサイネージの方向性といった視点で本コラムを書いてきたわけだが、今回は各論の話題である。タッチパネル型のデジタルサイネージで私が常日頃思っていることと、それを具現化している例をご紹介したい。  デジタルサイネージは「時間×場所=状況」に応じて使い分けられるべきものであることは、これまでの本コラムですでに十二分にお分かりいただいたのではないかと思う。そういう意味で、いわゆるタッチパネル型のインタラクティブなデジタルサイネージには正直課題も多い。

 まず「状況」についてよく考えてみるべきだ。タッチパネルは当然ながらタッチというアクションを利用者にお願いする、あるいは強いることであって、その障壁を超えたことによって得られるメリットがなければ意味が無い。この障壁は必ずしも悪いことではなく、むしろとても重要でさえあるのだ。超えてもらう壁画が低いと確かに利用もしやすいが、その結果得られるものの期待値は実は低く、そのことは満足度も決して高くはないだろうということだ。逆に超えてきた障壁が高ければ高いほど、実は利用者側の満足度も高いということも忘れてはならない。

 ではインタラクティブなサイネージで越えるべき障壁とは何か、その高低とはどういうもので、そこから得られるメリットは何なのか。

 たとえばデジタルサイネージで「ここにお得なクーポンがありますよ」と表示をして、おサイフケータイでそれをゲットする、という話は星の数ほど行われてきたが、同じ数だけ屍が累積しているではないか。

それは、

 1 サイネージともクーポンともまったく無関係な状況で、
 2 異なる目的のためにある場所を歩いているときに、
 3 たまたまサイネージの存在に気がつき、
 4 そこに表示される情報を一瞬で理解し、
 5 理解した内容が自分にとってもメリットがあることをこれまた一瞬で理解し、
 6 それがケータイクーポンであることをさらに理解して、
 7 ポケットかカバンの中からケータイを取り出し、
 8 サイネージがある場所までわざわざ何歩が歩み寄り、
 9 人目を気にせずタッチして、
10 そのクーポンの存在を忘れることなく、
11 いつかそれを行使してベネフィットを得る。

 という一連のプロセスを超えられる人が、いったいどれだけいるのだろうかということをまったく考慮していないということだ。このケースでは先ほど述べた障壁の高低という意味では、高いとか低いとか言うレベルではなく、障壁の「数」が多すぎるのである。これはもはや嫌がらせに近いものがあり、「論外」である。
 この手のケータイ連動型のサイネージは、コミュニケーション設計がデジタルサイネージ起点であることにそもそも無理があるのだ。たぶんこれは逆であるべきで、すなわちモバイル側で起点となるコト(例えばモバイルキャンペーンとか)がまず最初にあり、そのコミュニケーションの終点に、サイネージが何らかの役割を果たすという設計でないといけないのだ。

 案内板のようなインタラクティブのサイネージも、まったく見向きもされることなく放置されている「墓石サイネージ」がいまもなお非常に多い。

 たとえばこの例は静岡市に設置されている例。私が現地に出向き、誰が使うのだろうかとしばらく見ていると、この写真の女性はサイネージの真ん前に何の悪気もなく自転車を止めて、立ち去っていったのである。

 写真1

  彼女に非があるわけではなく、これが操作ができるサイネージであり、利用者に何らかの利便性を提供するものだとまったく思わない、という現実がそこにあるだけのことである。

大部分のこうした墓石事例には幾つかの共通点がある。

1 設置場所が適切ではない
2 その場所にニーズがあっても設置方法や視認性に問題がある
3 操作できることがそもそもわからない
4 操作性が悪い
5 人目を気にする人には向かない壁面に設置されている


 では、いったいどういうものが好ましいのか。残念ながらその事例は国内ではなくロンドンにあった。まずはこの写真をご覧いただきたい。

 写真2

 先程の悪しき事例になぞらえて説明すると、

 1 設置場所は適切である。
   ここはロンドンでも最大級の巨大なショッピングモールで、多くの人が目的の場所  
   を探すのに苦労している。
 2 日本の事例では設置状況が壁面に対して直立しているのに対して壁面ではなく、
   通路の真ん中にあり、かつ両面から操作でき、高さも向こう側が見渡せならがら
   すでに操作している人が可視化される。(ラーメン屋の行列と同じ)
 3 操作している人が可視化されるので、操作できることに気がつく
 4 高さが子どもや車椅子でも操作しやすい。大人にとっては手をついて安定した
   姿勢でじっくり操作できる。
 5 高さが低く画面が小さいので後ろから何を見ているのかがわかりにくい。画面が小さいことは
   むしろコストダウンになるので好ましい。

 このロンドンの事例は、やはり筐体のデザインが勝利のすべてであるといえよう。静岡の例とはまったく逆で、最初に奥の親子連れが操作している姿に気がついた手前の男性がサイネージに気がついて同時に操作を始めたのである。

 デジタルサイネージはいくら机上で計算しても、現場の状況を考慮しないと単に墓石を増やすだけのことになる。考慮すべき点は決して特別なことでも何でもなく、設置を考える側が利用者の側になって、その「状況」に素直に立会い、身を置けば、答えは自ずと出てくるのである。


デジタルメディアコンサルタント
江口 靖二 

投稿者:江口at 09:34| 江口靖二の是々非々サイネージ