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2012年07月11日

トレインチャンネルを手本にすると必ず間違う

 JR東日本企画のトレインチャンネルはデジタルサイネージの成功例の一つである。しかし、ここで読み違えてはいけないのは、この成功例は他の事業者がベンチマークにするものではあっても、決してお手本ではないということだ。

 トレインチャンネルはディスプレイ数19500面。1日に山手京浜東北中央線だけで乗客2700万人。これで広告売上が年間48億円である。要するに圧倒的な規模によってもたらされる成功である。JR東日本企画の担当者氏によれば、「サイネージが稼いでいるのではなく場所が稼いでいる。こういう場所はもともとアナログでも稼いでいた場所で、それがデジタルによって最大化された」ということだ。それだけではないがその通りである。

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  トレインチャンネルの成功要因は以下の4点だ。

1 広告モデル
 これは圧倒的な数、幅広い属性に伝わるからである。極めてマスメディア広告に近い。
わずか数枚のディスプレイで広告モデルを語ったところで広告ビジネスは成立しない。

2 不動産価値
 鉄道というものが持っている元々の価値。そして具体的にディスプレイを設置できる場所を自ら保有していること。地主には小作人は絶対に勝てない。これはロケーションビジネスの根本中の根本だ。勝てないというのはビジネスが成立しないという意味でもない。

3 投資資金力
 19500面に展開するだけの資金力。そもそもトレインチャンネルですら、設備投資は運行情報などの提供という側面があったから成立している。100%自前で設備投資するのは至難の業である。

4 商品開発力
 1から3までは状況と環境の話。環境をビジネスに変えるための企画力と開発力と実行力がJR東日本企画には溢れていた。いまでこそ音の無いトレインチャンネルが当たり前でかつ皆が絶賛するが、よく考えていただきたい、「音の出ない英会話のCM」を企画して広告費を払ってもらうためにどれだけの努力と工夫があったのかを。通常なら企画の段階で100%ボツである。それを越える努力があったことを見落としている人が多すぎる。

 これら4点はJRに特殊な事情である。普通の人、普通の法人ではできることではない。ではこれらの条件が整っていなければデジタルサイネージビジネスは成り立たないのか。答えはノーである。

 まず広告モデルであれば、一定の数が必要になるのは当然である。しかし広告モデル以外であれば数が最優先はされない。不動産的側面でも小作人は勝てないと書いたが、放牧民のような使い方は地主にはできない。資金力は数に比例するので、小さな規模で回すことは不可能ではない。商品開発力はビジネス競争においては当たり前の話である。

 トレインチャンネルのまねをしても、JR以外にはうまく行くはずがない。実際同業者である東京メトロや私鉄各社ですらJRほどの成功は出せていない。それには各社ごとに先ほどの1から4のどれかに問題があるからだ。ましてや鉄道会社以外の事業者がデジタルサイネージを展開するときに、モノマネで成功するはずはないのである。

 大切なことは先程の4項目でトレインチャンネルの成功分析を行い、その上であなたの事業の内容を比較検討した上で、強みや弱みを分析して事業プランを立てるべきである。勿論実際の事業プランの策定にあたっては4項目では足りるわけがない。とにかくトレインチャンネルをメディア的に、ビジネス的にどう分析して、それをベンチマークにしてあなたの事業を考えていく。こういった作業なくして闇雲にディスプレイを置いたところで、それはハードやシステム売りであろうが、店頭販促であろうがオフィス内利用であろうが、コンテンツだろうが、そこでは何のビジネスも成功するわけがない。

デジタルメディアコンサルタント
江口 靖二

投稿者:江口at 09:21| 江口靖二の是々非々サイネージ