2015年のデジタルサイネージが1兆円産業になる理由
1年ちょっとにわたって隔週で連載させていただいたこのブログも今回が最終回です。そこで最終回は向こう3年くらいのデジタルサイネージを取り巻く環境を俯瞰しておくことにする。
その方向性は大きく分けて3つだと考える。
1 「高機能」と「お手軽」に2極化
2 マルチスクリーン化の加速
3 ホワイトスペースの活用
1 「高機能」と「お手軽」に2極化
2極化はすでにじわじわ進行中だ。鉄道や飛行機などの交通機関と大規模商業施設なのでは広告利用で高い精度のシステムが求められたり、高機能なタッチパネル利用や1箇所にディスプレイを9面とかそれ以上設置して視認性の確保やインパクトある利用をするものだ。これらに共通するのは導入コストは比較的高価であっても、それを十分償却できる規模でエコシステムが構築できるようなものである。またもう一方でタブレットなどを利用した個店レベルでのフォトフレームのようなサイネージ利用である。こちらはローエンド側であるが数が多い。今後はさらに安価で薄型のディスプレイや、それに接続できる超小型のSTBなどが登場してくるだろう。ローエンド側ではコンテンツ制作のためのツール類も充実してくるはずである。
広告モデルは繰り返ししてきたように「数」が確保できるロケーション以外には成長性はない。スーパーローカルな広告は次項に示すマルチスクリーン化やホワイトスペースの活用があって初めて局所的にごくごく小さな金額でのみ成立しうる。オフィスサイネージは一般に可視化されないので地道な普及になるがまだ成長分野といえる。
2 マルチスクリーン化の加速
マルチスクリーン化は具体化にはまだ数年は要すると思われる。こちらで述べたような環境はまずはハードウエアとネットワークが対応して行き、それを利用したメディアコミュニケーションやマーケティングコミュニケーションが実践されていくだろう。人々の生活動線に合わせたコミュニケーション設計があちこちで実践されていくのだろう。この領域に関してはこれまでのサイネージに関わってきた人々が最も不得意とする分野であろう。このエリアの果実を得るのはマーコム系以外の企業には困難であると思われる。
3 ホワイトスペースの活用
大量の公的資金が投入されて確保されたアナログ放送跡地の電波であるホワイトスペースは国民の財産である。ここでは高い方の周波数を利用した全国型のV-Highと、低い方は地域型のV-Lowという2つの区分けがある。個人的にはこの区分けはあまり意味が無いと思っている。
例えばすでにV-High を利用したものとしてはNOTTVがあるが、当初のコンセプトはともかく、現状の移動体向け有料多チャンネル放送ビジネスのニーズは高くはないと私は認識している。それよりも、このホワイトスペースとデジタルサイネージの親和性は本来非常に高い。それは住宅は勿論、商業施設やオフィスなどに張り巡らされたTV受信用の同軸ケーブルというインフラである。デジタルサイネージ設置においてはいかにしてネットに接続するかというのが必ず最後の最後に課題となる。これを解決するためには放送波帯域を利用してIPパケットを各端末にカルーセルで送るのが最も効率がいい。カルーセルというのは大量のデータをグルグルと循環させながら何回も繰り返し送る方式のことだ。端末側は自分のデータだけをフィルタリングして受信する。
伝送路にVHF放送帯域の電波を使う方式であれば、すべての店舗にあるだろうテレビ端子とサイネージ端末を接続することで、小規模個店で工事なしにデジタルサイネージが実現可能だ。テレビ端子から数メートル以上距離がある場合は、アンテナ端子にはめ込んで無線LANの電波を飛ばすアダブターを作ればいい。こうした建物内は勿論のこと、たとえば全てのバス停にバスの現在位置を含めた運行情報や広告を表示させたり、交通信号機自体を制御することも可能だ。スカイツリー1箇所から関東エリアのすべてのバスのリアルタイム運行情報を送出することは技術的には簡単なことだ。
さて、どこまでサイネージの概念を広げるつもりだというお叱りの声が聞こえてくるが、最初から家以外の場所にあるディスプレイすべてがデジタルサイネージの対象なので、これは当然の成り行きなのである。柔軟な視点で古くて新しいメディアを創りだしていきたいものである。
デジタルメディアコンサルタント
江口 靖二
投稿者:江口at 09:32| 江口靖二の是々非々サイネージ